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複数ベンチャー起業の注意点

先月お伝えしたDigg関連について。先月の投稿(Revision3-come party like it’s Web1.0)ではDiggの中心メンバーがRevision3という新会社を立ち上げて”parallel entrepreneur”とも言われているということに触れました。この点に関して、VCがリスク分散投資をするのと同様に起業家が複数のベンチャーに賭けるのもありではないか、という興味深い点をDave Takeuchiさんが昨日のブログで書いておられました。ソース元のMercury News記事ではこういった起業家を”hyper-entrepreneurs”としています。

確かにいくつものベンチャーを掛け持ちしている人は結構います。この起業家によるリスク分散という発想、非常に面白いものだと思いますし、私も場合によってはアリかなと思いますが、実際これを狙って掛け持ちしているという起業家はそういないと思います。そういう発想を持っているのは恐らくこれまでにも幾つか起業してきたビジネスに長けたいわばプロ起業家タイプくらいなもので、通常は自社のプロダクトを開発している最中に面白い発見があって暫くサイドでやっていたが本筋ではないので新たな企業体を起こすとか、ちょっと違うけど同じ領域でまた面白いアイディアが浮かんだから、みたいな理由で複数企業の掛け持ちという状態になることが多いのではないでしょうか。

掛け持ちが可能かどうかはもちろんその経営者の力量や掛け持ちの仕方にもよりますが、その複数の企業の関係、業種・業態、フェーズの違いにもよります。一つ注意して頂きたいのはこのMercury Newsの記事の引用で使われている複数企業を示す言葉がprojectsであること。これら掛け持ちの企業はcompanyというレベルではなく projectというのに近い性質のものが多いということです。テクノロジーベンチャーの初期の段階は単体の会社(経営者や従業員がそう思っていたとしても)というよりもプロダクトチームとかプロジェクトというのに近い場合が多いです。こういったベンチャーを複数経営するのは、大企業で管理職がプロジェクト等を複数管理するのに近い感覚かもしれません。なので個々が成長していくと所有はある程度キープしていても経営は他の人に任せるなどしないと恐らく物理的に不可能になるでしょう。

何事もそうですが、1度経験したことは2度目はかなり楽だし、辛い事やそれを上回る楽しみが分かっていて、上手くやる方法も見えてますよね。本来は 1つ終えてから次へと進むわけですが、特にWeb2.0のようなホットで参入障壁の低い分野で事業をしていて、自らマーケットニーズが見えていて、今捉えないと意味がないような新たなアイディアがある場合、パラレルに起業するというのはある意味理に適っているとも言えるでしょう。

先程挙げたとおり、良くあるタイプのもう一方として、既存のベンチャーからスピンオフするものがあります。プロダクトやコア技術を開発している最中に面白い発見があって、サイドでしばらくやっていたけど本筋ではないので外にだす、というもの。こちらはインターネットに限ったものではなくあらゆるテクノロジーベンチャーでよく見られます。

何れにせよ、私はこの別ベンチャーを立ち上げるというアプローチは基本的には賛成です。先日の投稿(フォーカス、フォーカス、フォーカス!)でも書きましたが、ベンチャー企業はとにかく集中することが必要です。多くのことを薄くやるのではなく1つのことを誰よりも優れて行うのが競争優位だからです。新しいアイディアにしても派生製品にしても、本業とちょっとズレているものは本業にくっつけずに他の企業体とするほうがブレません。但し、本業とズレているということを自ら正しく認識する必要があります。これは、結構難しいことではあるのですけどね…。

別ベンチャーを立ち上げるべきかはexitの観点からも考慮する必要があります。特に理想のM&Aを想像してみたときに方向性の違うものは、注意して分割するほうが良いでしょう。例えばDiggとRevision3の場合ですが、参加型インターネットニュースサービスとコンテンツ製作です。それぞれに違う買い手のプロファイルが考えられますよね。別企業として分かれていない場合、両事業を買収して利がある企業はあったとしても少数ですし其々の事業に最大限の価値は見出さずディスカウントのまとめ買いをするかもしれません。或いは、買収後片方の事業をたたむかもしれません。一方、別企業として分かれている場合、それぞれを最適な相手に売るとして各々が最適なバリュエーションを得られれば、結果として2社合計の買収金額は高くなるというケースもあります。また、一方だけ売却して、もう一方でベンチャー経営を継続するという選択肢もあるわけです。

その別ベンチャーに分けるやり方について1つ注意事項を。特に将来M&Aを考える場合、各企業はなるべくクリーンにしておくべきです。ここでクリーンとは、お互いの境界線がはっきりしていて、ひも付きやしがらみがなく、複雑な役員・従業員構成などがない、ということです。

テクノロジーM&Aでは多くの場合その企業の優秀な技術者獲得が目的の1つであるため、買収した会社のエンジニアを確保できる状態でないと意味がありません。CEOは当面兼任だとしても、各ベンチャーでエンジニアは共有せず専任させるべきです。

そして、その2社に深い技術的関係がある場合、事業契約等もクリーンにしておくことが必要です。馴れ合いの内容、例えば技術のライセンスが exclusiveである場合、或いはライセンスやサポートが無料または破格に安かったり、期間が長かったりと他の無関係の会社よりはるかに有利な条件になっている場合、結構な問題になり再交渉が要求されたり、買収価格に響いたりします。これが上手くいっていないと買収自体が成立しなかったり片方がつぶれてしまうという悲惨な結果にもなりかねませんので細心の注意が必要です。

さて、ちなみにこのDigg、今日のTechCrunchによるとNews Corp.と買収交渉に入っているという噂です。Diggとしては$150M以上で売るか、既存のVCから$5MほどのSeries B投資を受けるという選択が掛かっているとの事。

さてどうなることやら。

たかが情報整理されど情報整理 – The Hype Machine

今日はちょっと時間があったのでオフィスのデスクに山積みになっている雑誌類を整理することに。3冊目に広げたのはBusiness2.0の今月版。パラパラめくっていて目を引いたのが、Who’s Nextというセクションにあったこの記事で、音楽ブログからMP3を寄せ集めているサイトのThe Hype Machineについてのもの。

The Hype MachineはAnthony Volodkinという一人の学生が運営しており、600以上ある様々な音楽ブログソースにおいて取り上げられている曲目やアルバム、アーティストをリストにしており、ユーザーはリンクをクリックすことで曲を聴いたりブログ記事を読んだり、気に入ればiTuneやAmazonで購入できる、という仕組みになっています。

ポイントは2つ。

1つ目は”ブログで多く語られている曲”というCGMベースの民主主義的な人気ランキングになっていること。音楽雑誌やラジオやMTVとかのいわゆる権威のある方々が流行を決めたり作りだすというのではなく、音楽好きの一般庶民の間で流行っているものを流行っているものとするわけです。民主的という観点でいえば、ニュースサイトのDiggの投票制とも、ソーシャルブックマークのdeliciousの総計ともちょっと違うアプローチですね。音楽は好きなものの遠い昔にMTVを見なくなってから流行りにはすっかり疎い私ですが、このサイトで自分の知らないアーティストや曲で話題になっているものをチェックして聞くことができ便利そうです。

2つ目はサイト上のプラグインから曲を簡単に聞けるもののダウンロードはできず、購入を促すという正攻法をとっているところ。それでもブログでの MP3掲載自体微妙で、著作権に関してはやはりグレーエリアでの運営というのは必然的な現状です。ですが、細切れの視聴とかではなくフルトラック聞けることも多いので、初めてのアーティストの場合も吟味して購入できる仕組みかとは思います。

UIはいたってシンプル。ジャンルとかの仕切りは今のところないようです。このプラグインが良くできていて、ストリームはスムーズだし曲はシャッフルできるし、使い勝手が良いです。

それでも、ほんとに新しいことなのか?というのが最初の印象。正直こういった音楽の集積サイトは結構あるのだろうなと思っていましたし、ぴったりWeb2.0の範疇ではないですか。でも軽く調べてみたところ他に話題になっているものはelbowsくらい。やはり著作権問題が大きいのでしょうか。(ちなみにこのelbowsの方は、サイト上でストリームするのではなくリンクされている各ブログへユーザーを誘導する仕組みになっています。)グレーエリアであるにせよ他にあまり競争相手がいないとなると、これは結構面白いかもしれません。現在のシンプルな仕組みからビジネスとして発展させられる可能性は結構ありそうです。ソーシャルな部分を組み入れるとか、サーチを活かすとか、いろんな方向性があるのではないでしょうか。

この記事にあるようにVCが数人訪れているようなので、近々、本格的に設立&fundingというニュースが聞こえるかもしれません。Google とかYahooとかも取り組んでいるのかもしれませんね、この分野。そして、上手くいけば早摘みM&Aの対象になる可能性があるでしょう。技術的にどれだけ複雑なものか分かりかねますが、ユーザーの規模が大きくなるだけでも魅力はあるでしょう。私は仕事ではメディア系の企業は扱っていないのでこの辺りの情報は薄いです。この分野の動きをご存知の方、著作権問題に詳しい方、ぜひコメントをお寄せください。

さて、これにちょっと興味を持ったので、今まで気になっていたのだけれども試していなかった他の音楽関連のサービスも試して見ました。PandoraとLast.fmです。The Hype Machineが世に既に選択された音楽を扱うのに対して、これらは無数にある音楽の中からユーザーのテイストに合わせて選択するというもの。フィルターのある場所が違うわけです。

Last.fmはソーシャルネットワーキング色が濃いので私的にはイマイチです。が、このPandoraスバラシイです。まず自分の好きなアーティストや曲をスターティングポイントとして入力するとその音楽のストリーミングが開始され、その後400もの評価基準に則って似た趣向の曲を次々にストリーミングしてくるというもの。Pandoraが選んだ曲が好みではない場合、それを伝えるボタンを押すと次の曲に早速移り、Pandoraはそのフィードバックを利用してさらに嗜好分析を研ぎ澄ます仕組み。そのストリーミングを聞きながらこの記事を書いているのですが、今の所この2時間くらいで好きではなかった曲は1曲だけ。スターティングポイントによって嗜好の特定が上手くいきやすいものとそうでないものがあるかもしれませんが…。このPandoraは San Franciscoの対岸であるOaklandを拠点としているベンチャーで既に$23Mほどの投資を受けています。

音楽をかけながら仕事をしたい時が結構あるので、このThe Hype MachineとPandoraは双方異なる利点がありこれから私のPC上で大活躍してくれそうです。 皆様もお試しあれ。

そんなわけでデスクの雑誌整理も3冊目で敢無く敗退。無数の情報をさばくことがいかに難しいことか…。アプローチには様々あるものの、これだけ情報が日々増えていく中で、賢く情報を整理してくれる仕組みは本当に貴重です。音楽については今日の一件でしばらく満足できそうですが、特に仕事関連で読みたい或いは読むべきものの整理、絶対量の削減…これはまだまだ完璧なソリューションがないようです。今後も長い試行錯誤が必要そうです。

もしかしたら、あれもこれも読みたいのに読めていないというのは時間の使い方しかり、ただ貧乏性なだけかもしれませんけどね….情報整理のtipsお待ちしております。

ちなみにPandoraにインプットしたのはこれです。Jazz系が好きな方お勧めですよ。

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