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第2第3のグーグル

どうも。 今日は大きく育つベンチャーを創るという話です。

先日Paul GrahamのエッセイでWhy There Aren’t More Googles?(どうしてグーグルのようなベンチャーがもっと現れないのか?)という興味深いものがありましたので、以下要旨を意訳します。

– 「グーグルは世の中を変えるという目的意識があったために、安易に身売りをしなかった」というのは聞こえは良いが誤解である

– グーグルにしてもフェイスブックにしても、買収されずに単独で大きくなったのは、売るつもりがなかったからではなく、提示された価格が安すぎたためである

– かなりの札束を積まれても、それ以上に価値があるとしてその提案を撥ね付けられるような度胸がある創業者であることも、成長の一因かもしれない

– 問題なのは、投資家がベンチャー企業に早くエグジットを勧めているからではなく、そもそも大胆なアイディアに投資が回っていないことにある

– VCがファンドサイズの巨大化などにより昔に比べて保守的になったのかもしれないが、変わったのはむしろ起業が非常に安くなったことに起因するベンチャー企業側の方で、VCがその変化に対応できていないということのようだ

– 創業者とアイディアだけでまだ形になっていないベンチャーに$20k投資する会社や、成功しかけているベンチャーに$2millionを投資する会社はあるが、有望だがまだ乗り越えねばならないハードルがいくつもあるようなベンチャーに $200kを投資する人は充分にいないのである

– その中間部分はエンジェルによって補われていることが多いが、数は充分ではなく、また専業にしている人も少ない

– 初期のベンチャーに掛かる金額が少なくなっている現在ではその中間部分の重要性が更に増しているが、従来のVCの収益構造には見合わずに乖離が生じている

– ベンチャー起業がどんどん安くなっているということは、1社ごとの必要資金が少ないと同時に、多くの企業が生まれるということである。よって、多くの企業に小額を分散投資することにより、多くの資金を投入し総じて大きなリターンを得ることも可能である

– その中間部分の投資には莫大な機会があり、そのような構造変化をするVCが出てくる、或いは新しいタイプの投資家が生まれることによって、いずれギャップが満たされるだろう

– そのような分散投資が行われる状況になれば、より大胆なアイディアにも資金が回るようになるため、もっと多くのグーグルが生まれるはずである(買収側の企業がそうしたベンチャーを甘く見る状況が続いて買い逃せば、ではあるが)

かなり前にも書きましたが、VC側の構造改革はある程度進んできているという印象ですし、エンジェルの側でも組織的に投資を行う事で纏まった金額をだせる場合が増えてはいます。しかし、景気が悪くなるとどうしても保守的になるので、ホームランではなくても手堅くリターンが稼げるレイトステージの投資が多くなりますし、初期段階の投資にしても、過去に実績があり良く知っている創業者やその紹介という内輪に投資する傾向が強くはなってきているようです。

確かに初期段階における中規模投資が多くされることは重要だと思いますが、そのことだけで多くのグーグルが生まれるかというと、どうでしょうね。

コアの部分になる新規のアイディアがあっても、そこから鉱脈を掘り当てるまでには方向性の転換は良くあることなので、様々なアイディアをある程度世に出すところまで支えるということは、数多く放って何があたるか見るという点では確かに論理的だと思います。ですが、例えばネットサービス系のベンチャーだとして、グーグル等による広告を主体とした既存のエコシステムに乗る形の会社が100出てきたとしても、或いはフェイスブックのプラットフォームに乗ってアプリケーション等を作る会社が100出てきたとしても、そこから次のグーグルは生まれないような気がします。

もちろん私が知らないだけで様々な大胆なアイディアが芽生えている可能性はありますが、ことネットサービスに限って言えば、数多く生まれるベンチャーの試みがどこか似ていて小粒な印象がありますし、これらの既存の仕組みから離れた新たな視点、角度が必要な感じがしてなりません。

新たに大きなものが出てくるのは、最初のネット興隆期の時点では素地が整っていなかったために、成し遂げられなかった法人の分野かもしれませんし、或いは、何か想像していなかったものとの組み合わせかもしれません。もしくはクリーンテックにみられるような新種の産業なのかもしれませんね。

皆さんはどう思われますか?

では、今日はこの辺で。明後日から暫らく東京に行くので、2週間ほどお休みします。ではまた五月に。

ベンチャー企業のイタイタしい身売り

どうも。今日は本業、M&Aの話です。以前、ベンチャー企業の売却vs.身売り、ということについて書きましたが、今日はこれぞ身売り、というニュースがありました。

元々はオンラインTVガイドで後に動画検索も加えたインターネットサービスのMeeVeeですが、何とプレスリリースを通じて売却の意思を通達したのです。

これが、件名はOnline Entertainment Portal MeeVee In Acquisition Discussions (MeeVeeは売却交渉中)なのですが、その内容は読んでいてかなりイタいものでした。これこそ、言わぬは言うに勝る、が悪い形で現れてしまったという感じで、「誰でもいいから買ってくださーい」と請うているのがありありと出てしまっているのです。

MeeVeeはこれまで幾つかのVCから$24Mもの資金調達をしてきたそうで、煮詰まってからモデルに変更を加えたり、人員削減したりしてきましたが、万策尽きたというところなのでしょうか。それならば、少しでも債権者・株主へのダメージを和らげるためにこのような手段を取るのは致し方ないとは思いますが、そうした切羽詰った状況ではない限り、売却においてこのアプローチは悪いお手本と言わざるを得ません。

プレスリリースは短いですので、まずはこちらの本文をご覧下さい。

何が悪いかというと、まず、この手の話をプレスリリースで公募すること。清算前の最終手段であれば、こうした通達や、リスティングサイト、そしてeBay等のオークションサイトを活用するというのもありでしょうが、通常はもっと密かに選択的に行われます。

そして、全体のトーン。これは何を言うか言わないか、そして言うならばどのように言うか、という思考の総決算なわけで、文章の構成や使用する言葉等によって、伝えたい事がその通りに伝わるかを綿密に計算しなければなりません。全体像なので、一つ一つを指摘するのも無意味かもしれませんが、分かりやすさのために例をあげます。

例えば、「最高の長期的利点とシナジーが期待される幾つかの買収候補と現在話をしている」と言いつつ、「興味のある人は連絡下さい」としています。これでは、現在話し合い中というのは嘘か、或いは、話しているとしてもまだかなり浅い段階だというように聞こえてしまいます。(話し合いがかなり進んでいて、本当に興味を示している相手がいる場合、一時的に外部へのそうしたコミュニケーションは一切遮断されるのが通常です)

そして連絡先もSteve HugheyというDirector of Engineeringへ直接メールすることになっています。最後にあるように今では残る7名となってしまったようですが、連絡先がエンジニアの長というのは、もう機能していない組織なのだな、と思わせてしまいます。

最後にもう一つ例を上げると、トラフィックデータが2007年8月と3月を比べているところ。もう数年やっているベンチャーなのになぜ、昨年8月なのかなと思いませんか。ちょっと調べてデータをみてみると、2007年5月辺りに一時かなりのピークがあったのですが、8月にはガクンと落ちています。一番の底値と比較しているんですね。こうなると、3月というのも実は去年の話なのではと疑ってかかりたくなってしまいます。

というわけで、かなり厳しいレビューをしてしまいましたが、反面教師ということで。関係者の方すみません。

何事もそうですが、売却においても早く検討して準備をするに越したことはありません。早い段階でなら色々と取れるアプローチもありますし、交渉にも優位に臨めます。そしてその事業を継続拡大するための「新しい家」を見つける事が可能です。もう資金が尽きて身動きが取れないということになってからだと、話し合いができたとしても不利な立場になりますし、自分がせっかく創り上げたものの行く末にまったくコントロールが及ばないという残念なことになってしまいます。皆様お気をつけ下さい。

というわけで、今日はこの辺で。ではまた。