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Reddit – 戦略的M&Aという成長戦略

どうも。投稿が遅くなりました。今日はGoogleのJotSpot買収とCondé Nastによるredditの買収という2つのWeb2.0関連のM&Aがありましたので、そのうち後者の方を取り上げて見たいと思います。

redditは度々Diggと比較されているユーザー参加型のニュースサイトです。2005年に設立され現在は従業員4人の小さなベンチャーです。 先日引用したPaul Graham氏のいわゆるインキュベーターであるYCombinator等から$100k程の初期投資を受けています。(その後の追加投資があったかどうかはイマイチ不明です)

買収先のCondé Nastは大手出版社で、Vogue等のファッション誌やテクノロジー関連のWired、その他多数のライフスタイル雑誌を出版し、またそのウェブサイトを運営しています。

買収額などのtermは明らかにされていませんが、Wiredの傘下としてチームをサンフランシスコに引越しさせ、redditととして独立したまま運営しつつ技術を完成させ、WiredはじめCondé Nastの運営する様々なウェブサイトにこの技術を統合して、更に他社にもライセンスしていくというプランを発表しています。

このRedditはDiggの離れた2番手として言われてきたことが多いのですが、アプローチには明確な違いがあります。1つはredditにはどの様ににニュースを評価しているかという行動特性を把握することによるリコメンデーション機能もあること。Read/Write Webではこの点に触れ、DiggをPower of Mass、redditはPersonalized Contentと分類しています。(Read/Write Webにはredditの技術や競合に関してこれこれなど非常に良い記事が幾つかあります。その他redditとDiggの投票形式の違いを比較したZnetのこの記事も参考になります)

もう1つの大きな違いはredditはwhite label(いわゆる”powered by”と記されたOEMのようなもの)として自社の技術を他のウェブサイトにライセンスしていることです。これには今回の買収相手であるCondé Nastのもので、セレブのゴシップニュースなどを扱うLipstick.comや、WashingtonPost.Newsweek InteractiveのSlate等があります。

では出版社であるCondé Nastがなぜ買収したのか。
redditの技術の視点が人気投票よりもパーソナライズにあり、コンテンツを多数持っている当社にとって非常に活用価値があるというのがまず大きかったのだと思われます。確かにこのままライセンス契約をすることもできたはずですが、redditが他社に既にこのライセンスを提供していることもあり、自社でこの技術を掌握するのが長期的には得策であると踏んだ。しかも技術を他社にライセンスすることでプロダクトレベニューが入る。恐らく結構リーズナブルな額だったはずです。
ではなぜredditは売ることを決めたのか。自社のブログでこの様に言っています。

As reddit grew, we were never quite sure where it would take us. To keep up with reddit’s growth, we’d need to decide between taking more investment or getting acquired. As much as we enjoyed VCs taking us out to lunch, CondeNet’s pitch was a little more enticing (they had better food).

最後のランチの部分はジョークだとしても、自社の次の段階への成長のためにVCからの資金投入を受けるか、或いは大きな事業会社の傘下に入るかの選択をした、という点は非常に重要です。

テクノロジーベンチャーには幾つかのステージがあります。分類の仕方は色々とありますが、シンプルに言うと、技術・プロダクトを開発するステージ、プロダクトを展開するためのインフラを構築する(セールスチャネルを築いたり、システムをスケールアップしたり等)ステージ、そしてそれを活かして事業展開し売上をだし成長していくステージです。各ステージでは必要なリソースやスキルが異なりますし、その都度正しい経営判断をしてゆかなければならずリスクが高まります。一方、外から投資を受けている場合は資金と引き換えに当然自社の持分は下がっていきます。最初の開発ステージは業種にもよりますが大抵は必要な資金額は少なく人員も技術者中心です。が、次のインフラ構築にはかなりの資金と異なるスキルの人員が必要になります。それをどのように調達するのがベストかというのが上記で言っている岐路なのです。

資金をVCから受けて自社で人を雇いインフラを徐々に構築するのは1つの方法ではありますが、実はもう一方でその双方を提供してくれる会社の一部となるというM&Aの選択肢もあるわけです。この場合、インフラはあるが必要な技術がない企業とその技術はあるがインフラが欠けているベンチャーとの相互補完関係が成り立ちます。これを俗に戦略的M&Aと呼びますが、通常M&Aと言った場合買い手の視点で語られる事が多く、ベンチャーにとっても得るものの大きい戦略的な補完関係なのだということが見過ごされているように思います。

例えばあるベンチャーの夢が自社のテクノロジーを世界中の人に使ってもらいたいというものであるとして、競合状況と市場の成長スピードを考慮した場合、どの方法がその夢をより確実に実現できるかと問う必要があります。資金を投入して自社で有機的に成長する場合は、集められる資金量により速度は制限されるので自ずと緩やかなものになります。その間に競争相手に先を越されるかもしれませんし、自社の限られたリソースやブランドではリーチできるユーザー数も限られます。一方でビジョンを共にし、自社の夢を実現するのに最適なインフラやブランドを提供してくれる相手がいる場合、自社ではなし得なかった規模・スピードで一気に事業展開し、より多くの人にリーチできる可能性があります。勿論自社の所有と引き換えになりますが、実はこの岐路でM&Aを選択することはテクノロジーベンチャーにとっては最もリスクの低い夢の実現方法、つまり正当な”成長戦略”である場合があるのです。

この成長を成し遂げるには、当然自分の条件を明確にし、最適な相手を慎重に選択する必要があります。その点をredditは次のように言っています。

We’re still going to be the guys reading your feedback emails and keeping reddit chugging along. We’ve also been given about as much autonomy as an acquired company could get. In fact, they’ve insisted that we focus on growing reddit. With their resources, we’re looking to do some neat things in the coming months.

redditの条件が傘下に入るながらも独立運営ということであったことが読み取れます。
この度の選択が本当に良いものであったかは時を待つしかないですが、私はしっかりと考えられたものだと評価します。但し、1つだけネガティブな点があるとすれば…これなどの得られる情報を見る限りでは、買収の経緯はどうやらLipstickでの協働経験からオファーが出たということらしく、redditは他の買収相手の可能性を広く探ってはいなかったようです。とすると、買収の価格は結構低かったと思われますし、他にもっと適した相手がいた可能性も捨て切れません。

この戦略的M&Aという”成長戦略”を、ベンチャーが早期の段階から考慮し主導的に実践することができればベストなのですが。

複数ベンチャー起業の注意点

先月お伝えしたDigg関連について。先月の投稿(Revision3-come party like it’s Web1.0)ではDiggの中心メンバーがRevision3という新会社を立ち上げて”parallel entrepreneur”とも言われているということに触れました。この点に関して、VCがリスク分散投資をするのと同様に起業家が複数のベンチャーに賭けるのもありではないか、という興味深い点をDave Takeuchiさんが昨日のブログで書いておられました。ソース元のMercury News記事ではこういった起業家を”hyper-entrepreneurs”としています。

確かにいくつものベンチャーを掛け持ちしている人は結構います。この起業家によるリスク分散という発想、非常に面白いものだと思いますし、私も場合によってはアリかなと思いますが、実際これを狙って掛け持ちしているという起業家はそういないと思います。そういう発想を持っているのは恐らくこれまでにも幾つか起業してきたビジネスに長けたいわばプロ起業家タイプくらいなもので、通常は自社のプロダクトを開発している最中に面白い発見があって暫くサイドでやっていたが本筋ではないので新たな企業体を起こすとか、ちょっと違うけど同じ領域でまた面白いアイディアが浮かんだから、みたいな理由で複数企業の掛け持ちという状態になることが多いのではないでしょうか。

掛け持ちが可能かどうかはもちろんその経営者の力量や掛け持ちの仕方にもよりますが、その複数の企業の関係、業種・業態、フェーズの違いにもよります。一つ注意して頂きたいのはこのMercury Newsの記事の引用で使われている複数企業を示す言葉がprojectsであること。これら掛け持ちの企業はcompanyというレベルではなく projectというのに近い性質のものが多いということです。テクノロジーベンチャーの初期の段階は単体の会社(経営者や従業員がそう思っていたとしても)というよりもプロダクトチームとかプロジェクトというのに近い場合が多いです。こういったベンチャーを複数経営するのは、大企業で管理職がプロジェクト等を複数管理するのに近い感覚かもしれません。なので個々が成長していくと所有はある程度キープしていても経営は他の人に任せるなどしないと恐らく物理的に不可能になるでしょう。

何事もそうですが、1度経験したことは2度目はかなり楽だし、辛い事やそれを上回る楽しみが分かっていて、上手くやる方法も見えてますよね。本来は 1つ終えてから次へと進むわけですが、特にWeb2.0のようなホットで参入障壁の低い分野で事業をしていて、自らマーケットニーズが見えていて、今捉えないと意味がないような新たなアイディアがある場合、パラレルに起業するというのはある意味理に適っているとも言えるでしょう。

先程挙げたとおり、良くあるタイプのもう一方として、既存のベンチャーからスピンオフするものがあります。プロダクトやコア技術を開発している最中に面白い発見があって、サイドでしばらくやっていたけど本筋ではないので外にだす、というもの。こちらはインターネットに限ったものではなくあらゆるテクノロジーベンチャーでよく見られます。

何れにせよ、私はこの別ベンチャーを立ち上げるというアプローチは基本的には賛成です。先日の投稿(フォーカス、フォーカス、フォーカス!)でも書きましたが、ベンチャー企業はとにかく集中することが必要です。多くのことを薄くやるのではなく1つのことを誰よりも優れて行うのが競争優位だからです。新しいアイディアにしても派生製品にしても、本業とちょっとズレているものは本業にくっつけずに他の企業体とするほうがブレません。但し、本業とズレているということを自ら正しく認識する必要があります。これは、結構難しいことではあるのですけどね…。

別ベンチャーを立ち上げるべきかはexitの観点からも考慮する必要があります。特に理想のM&Aを想像してみたときに方向性の違うものは、注意して分割するほうが良いでしょう。例えばDiggとRevision3の場合ですが、参加型インターネットニュースサービスとコンテンツ製作です。それぞれに違う買い手のプロファイルが考えられますよね。別企業として分かれていない場合、両事業を買収して利がある企業はあったとしても少数ですし其々の事業に最大限の価値は見出さずディスカウントのまとめ買いをするかもしれません。或いは、買収後片方の事業をたたむかもしれません。一方、別企業として分かれている場合、それぞれを最適な相手に売るとして各々が最適なバリュエーションを得られれば、結果として2社合計の買収金額は高くなるというケースもあります。また、一方だけ売却して、もう一方でベンチャー経営を継続するという選択肢もあるわけです。

その別ベンチャーに分けるやり方について1つ注意事項を。特に将来M&Aを考える場合、各企業はなるべくクリーンにしておくべきです。ここでクリーンとは、お互いの境界線がはっきりしていて、ひも付きやしがらみがなく、複雑な役員・従業員構成などがない、ということです。

テクノロジーM&Aでは多くの場合その企業の優秀な技術者獲得が目的の1つであるため、買収した会社のエンジニアを確保できる状態でないと意味がありません。CEOは当面兼任だとしても、各ベンチャーでエンジニアは共有せず専任させるべきです。

そして、その2社に深い技術的関係がある場合、事業契約等もクリーンにしておくことが必要です。馴れ合いの内容、例えば技術のライセンスが exclusiveである場合、或いはライセンスやサポートが無料または破格に安かったり、期間が長かったりと他の無関係の会社よりはるかに有利な条件になっている場合、結構な問題になり再交渉が要求されたり、買収価格に響いたりします。これが上手くいっていないと買収自体が成立しなかったり片方がつぶれてしまうという悲惨な結果にもなりかねませんので細心の注意が必要です。

さて、ちなみにこのDigg、今日のTechCrunchによるとNews Corp.と買収交渉に入っているという噂です。Diggとしては$150M以上で売るか、既存のVCから$5MほどのSeries B投資を受けるという選択が掛かっているとの事。

さてどうなることやら。