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どうも。今日のサンフランシスコは素晴らしい気候です。いわゆる夏を感じる日です。年にそう何日もないので、今日はとっととやるべき事を切り上げて外に出ようかと思いつつあります。
さて、M&Aはそのプロセスにおいてどんなに慎重にフィットを検討してデューディリジェンスを行ったとしても、買収後のインテグレーションが上手くいかなければ失敗に終わります。M&Aの多くが失敗するとはよく言われることですが、その大半は買収後の行いによるものなのです。この点に関してGigaOMの昨日の記事になかなか興味深いものがあったので、今日はそれに触れたいと思います。
近頃、大手メディア企業等によるウェブ系ベンチャーの買収が多く見られますが、この記事によると、その「買収後」において、被買収のベンチャーを殆どそのままにしておく、更に言えば腫れ物に触るかのように扱うケースが増えているというのです。
Big companies buy hot web startups for their audiences and their cool factor. Increasingly, along with the transaction is the up-and-down pinkie-swear promise to have little-to-know impact on the acquired company. No name change, no office location change, little-to-no leadership change.
Acquirers, despite their enormous and asymmetrical audience, money, and power compared to their purchases, seem like awkward first-time parents afraid of hurting a baby. They are more than conscious of their status as old farts swooping in and quickly turning cool to lame.
その理由は、これらの大企業はウェブベンチャーの持つユーザーベースの獲得と同時にそのベンチャーの洒落た旬なイメージを買っており、ダサい自分達が手を加えることで駄目にしてしまうということを認識しているからだと。この大企業がベンチャーのいわばブランドを買うということは、新しいことだと思います。ウェブ系以外ではなかなか例が思いつきません。
“We have to keep the communities, otherwise what is the point,” CBS Interactive President Quincy Smith told us when his company bought Last.fm for $280 million. “In the end that is what we are buying. I think we want to do some minor grafts with the start-ups we acquire, help enhance their business without coming in their way.”
コミュニティーは確かに一度組成されるとそれ自体で独特な性質を持ち始めるので、買収によって反発を招き崩壊しやすいですよね。ブランドに加えて、例えばコミュニティーを創るなどのユーザーとの接点こそが、これらのベンチャーのもつ専門性であり大企業には欠けているものと言えるかも知れません。だとすると、そっちは専門家に任せて自分達は学びつつ裏でサポートするというスタンスは極めて正しいように思います。
インテグレーションの話は複雑なのでここでは深入りしませんが、一番大切なのは、何のために買収したのかということを具体的なレベルに落として関係各所内で共有し、その目的を達成するために最適なストラテジーをたて実践することだと思います。当然のように聞こえるかと思いますが、肝心の目的、何が虎の子なのかということがぐらついている例はとても多いのです。
このLast.fmのケースではコミュニティーこそが買収の目的であることを認識し、その維持拡大のためには被買収ベンチャーに良い所をそのまま続けてもらって、オペレーションに際して必要な部分で邪魔にならないように変更したりサポートするのが最適だというストラテジーなわけです。
極端な話、旬なベンチャーを買収することで「自社が先進的である」というイメージを打ち出したい、ということが目的であるならば、買収金額及びその後の必要経費を広告費と割り切って、本社とは切り離してそれまで通りに経営させて必要なことを言ってもらえば金は出す、というスタンスでも良いわけですし、何らかのコア技術が目的であるならば、買収後本社から適切なエンジニアを多く派遣して部隊を大きくし、マーケティングでは本社のブランドを強く押し出していき、ある程度の知識移転が済んだら、キーとなる技術職以外を解雇しても良いわけです。
要は、目的をはっきりさせて、皆がそれに対して納得し適した行動ができるようにすることです。目的がクリアでなかったり隠されていて、なんとなく本社からの人が増えてきたという曖昧で暗雲立ち込める状況をつくると、社員のモチベーションが失われ、顧客にもひびき、誰にとっても好ましくない状況に陥ります。
予め真の目的とその後の計画がある程度分かれば、ベンチャーも納得して買収相手を選択でき、買収後の行動にも大きな差が生じると思いますし、それによって買収の成功率もかなり上がると思われます。Win-Winの発想、give & takeの発想無しにはM&Aは成功しないのだと思います。
インテグレーションの件はまたいずれ触れたいと思いますが、今日はこんなとこで。
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どうも。ここしばらく、クライアントの契約書類に目を通しておりました。契約書類は最初はかなり取っ付きづらかったのですが、慣れてくると意外とすらっと読めるものだったりします。ですが、細部の解釈は非常に難しい。当然ですが、その文言一つ、濁点一つで意味が微妙に異なったりし、他に存在する契約書との関係で範囲がさらに定義されていたりするので、英語が外国語である我々は勿論の事、英語を母国語とする人の間でも、かなり解釈が分かれます。なので、不明な点についてはポイントを抽出し、やはり弁護士に確認すべきものだと思います。
で、何の話かというと、暫らく前に、ライセンス契約等に潜んで知る条項が、M&Aの際に手かせ足かせとなることがある、ということに触れたと思うのですが、その件について一つ例を挙げたいと思います。契約関連に関しては私も様々なケースに遭遇する中で日々学習中なので、折に触れて一般的なレベルで記していきたいと思います。
さてさて、その第一弾、自分のベンチャーを売却する際に足かせになる可能性が結構あるものの一つとして、Right of First Refusalというものがあります。この言葉ROFR等と略されたりして、アメリカの契約ごとではあらゆる所で遭遇します。不動産の賃貸から、野球選手の契約、その他様々なシーンで色々な表現で現れます。正しい日本語訳は分かりかねるのですが、優先拒否権というようなものです。
これは、まだ何の関係もない外部の人が何らかのオファーを出した場合に、既に何らかの契約を持っている人々に対して、それにマッチングさせたいかどうか最初にお伺いを立てる義務ということで、その背後には、新参者においしいところを不当に持っていかれないように既存のステークホルダーを保護・優先するという考えがあるものと思います。
このROFRはベンチャーに関するものとしては、例えば資金調達をする際の契約でも頻出し、いわばスタンダードな条項です。ですが、注意すべきなのは何に対する権利かという細部です。これが将来の資金調達ラウンドに関するROFRであれば確かにスタンダードでなのですが、もしこれがそのベンチャーが売却される際の権利となると話は別で、かなり厄介です。
VCの場合はベンチャーを買い取るということはまずないので影響はあまりないのですが、もし投資家の中に事業会社を含める場合には、この条項が要求されることが結構あると思いますので注意が必要です。この場合事業会社にとっては、早い時点でベンチャーの少数株を取得しておいて様子を見、上手くいって競争相手が買収の興味を示してきた段階で、それを跳ね除けて自分が所有するという上手い方法を与えるものです。しかし、外部者にとってはあまり手を付けたいものではありません。
ちょっと解りづらいかもしれませんので例を挙げて説明します。ベンチャーAにはその取引先N社が少数株主として資本関係も持っています。H社がベンチャーAを買収したいと思い、ベンチャーAにとっても良い話なので両社は交渉に交渉を重ねて基本的事項で合意します。ところがN社は買収案件に関して ROFRを保持しているため、ベンチャーAはN社に「こういう話が来ているのだけど、代わりに買う気あります?」とお伺いを立てる必要があります。どのようにROFRの文章が書かれているかによりますが、場合によってはH社からの条件の細部まで伝えて同額で買うかどうかを聞く必要があったり、またその検討に時間制限がなかったりします。
さて、N社は「検討するからちょっとまってくれ」と言ってその後2ヶ月何の音沙汰もありません。H社の方は苦労して社内のあらゆる承認を得てここまでこぎつけたのに、宙ぶらりんの状態にさせられているのでイライラしています。で、ようやくN社が「ではそのオファーと同じ条件で我々が買収します」と言います。そしてA社はN社のものになり、あらゆる術を尽くしたH社の努力は水の泡です。ベンチャーAにとってもH社のほうが将来おもしろい仕事が一緒にできると思っていたので残念な結果となってしまいました。
とまあ、こんな感じで中々難点です。もしN社が数ヶ月に及ぶ検討後に「やっぱり買わない」と言ったとしても、その検討に要した時間のためにH社が心変わりをし、当初の計画が無に帰してしまうこともあります。
このディールを台無しにするかもしれないということ自体と、ROFRがあることによるプロセス管理の難しさから(例えば関係各社の複雑な守秘義務を管理しつつ交渉を進めることや、ROFRを持つ株主がいるということだけで第3者が寄り付かなくなることのないようにコミュニケーションをマネージすること等)、これは結構厳しいということがお解かりになるかと思います。
またこの事業会社Nにとっても、当初の早く手を付けておいて機会を見て安く買う、という目的は達せないことが多く(Aが様々な会社と交渉済みでこのオファーがベストオファーである場合、N社はそれと同じかそれ以上のもの条件を受け入れる必要があるので)、結局誰にとっても良いものではないと私は思います。資本関係を既に持っている以上、ベンチャーAに対する情報は多く得られますし、ボードを通じてM&Aの話があがっているかも通常分かるわけで、この条件をもっていることでそれ以上の意義があるとも思えません。
これは最初の契約上のちょっとした文言から起こってしまい得ることです。ROFRを資金調達に限る文言で規定する、最低でもROFRの検討期限を定義しておく、またはROFRの代わりにROFO(Right of First Offer)にする等で、ある程度回避できることです。その交渉において立場上のまなければならない場合は別ですが、あまり深く考えずに或いは弁護士の詰めの甘さから、なんとなく曖昧な文言になってしまうと、後でこういった損を見ることになり残念です。一度締結された契約は、後で変更することは中々難しいものです。
というわけで、まあ、結構怖い話です。これはShareholder’s Agreementだけでなく、ライセンス契約等でも提示されることがあるので、その後の様々な影響を充分に考慮して曖昧にならないよう、ぜひともお気をつけ下さい。
今日はこんなとこで。ではまた。