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「バイアウト」はM&Aでのエグジットではない  #スタートアップ英語

日本の方々とお話ししていて時々気になっているのですが、もしかしたら、「バイアウト」という言葉の使われ方がちょっとガラパゴスな和製英語の方向にいっているのかもしれません。

「スタートアップA社が大手のX社にバイアウトした」というような表現が、A社がX社に買収されたという意味に使われるケースに何度か遭遇しています。が、この場合、英語でいうところの「バイアウト」は正しくありません。その数名の方々が間違って使っているならば良いのですが、確率的にいって、かなり多くの方々がそのように認識されているのでは、と思うようになりました。

スタートアップA社は売り手のため、「バイ=buy」がまずおかしいのですが、売却とか買収とか、どちらもバイだし、エグジットしてアウトするから、てな感じで定着してしまったのでしょうか?この文脈を英語で敢えて言うならセルアウト(sell out)になりますが、これは通常使われません。というのもsell outは魂を売るという感じのネガティブな意味合いを含むからです。

では英語ではどうかというと、X acquired A.または A was acquired by X.が最も一般的です。売り手が主体的に売ったとしても、「買収された」という表現が普通使われます。「エグジット」はどうかというと、それは厳密には投資に関してのことなので、結果としてファウンダーがその売却でエグジットしたとしても、買収というトランザクションのコンテキストとは若干異なるので、この文脈ではあまり使われません。

じゃあ「バイアウト=buyout」は何かというと、会社の過半数の株を買い入れて議決権などの支配権を手にすることで、最も一般的なのはファンドが事業再生などのために事業会社を買う場合です。

というわけで、M&Aでエグジットしたことを、バイアウトしたと英語で言っても通じないのでご注意を。

Earn-out (アーン・アウト)について – Part 2

どうも。引き続きアーン・アウトの話です。売り手の立場(特にベンチャー企業の場合)としてはアーン・アウトは避けるべきだと私は考えますが、ここでは、どうしてもという場合に、その受け取り確度をあげる方法を考えてみたいと思います。

まずは買収後にどういうことが起こりえるかという例をいくつかあげて見ますね。

1.買収元の親会社の価格設定基準を子会社となったベンチャー企業の製品に適用することになりマージンが変わる
2.親会社から更に人員が送り込まれたり、親会社と同等レベルに給与や福利厚生を調整したため、コスト構造が大幅に変わる
3.親会社がそのブランドやカラーを子会社のウェブサービスにおいて前面に押し出したため、多数の既存ユーザーが離れてしまう
4.それまでの知見・経験や合併後の働きぶりが買われ、元CEOやキーメンバーが親会社の新事業担当として抜擢される
5.全社コスト削減の一環で予算が激減する
6.買収を牽引したマネジメントが一掃され、当該事業部の全社におけるプライオリティが大幅に変わる
7.世の景気が一変してしまう

などなど、他にも色々と出てくるかとは思いますが、とにかく「その後」を100%コントロールすることはまずムリだという現実があります。もちろん買収した側もその買収が成功することを望みますが、そのための施策と被買収企業に課されたアーン・アウトの条件が噛み合うとは限らないわけです。そこを考慮したうえで、なるべく売り手としてコントロール可能なことに条件を設定するように交渉することが必要になるでしょう。

まずは景気や親会社の方向転換などコントロールが全くできないような環境変化の影響を最小限にするために、アーン・アウトの評価期間をできるだけ短くすること。

それから、条件をできるだけシンプル且つ買収の理由と沿うようにすること。例えば売上げが買収先にとって魅力的な場合では、コストなどの構造が変わることを考慮し、利益よりは売上の額や成長率を条件に用いる等。同様に、売上げが元より殆どないようなアーリーステージのベンチャーで技術等の戦略的な要因に基づいた買収の場合、売上げを条件にするのは自爆的ですのでご注意を。

他には例えば、その事業に対する一定のリソースを確保すること自体や、確保出来ない場合の基準値の調整などを契約に盛り込むなど、ダメージコントロールを予め入れておくことでしょうか。

お気づきとは思いますが、これらのことをきちんとしようとすると相当複雑です。交渉期間は長引きますし弁護士費用はかさみますし、物別れしてしまうこともあります。ベンチャー企業のM&Aではベンチャーに付随するリスクを回避するためにアーン・アウトによる買収が多いという認識もあるようですが、特に小型のベンチャーに関してはそんなことはないと思います。

というのも、買収の理由が自社の既存製品の競争力を増すための技術であったりと、売上げなどの数で計ることが意味を成さない場合が多いですし、そもそも予測の難しさを認めているわけですから売り手にだけアカウンタビリティを押し付けるというのはバランスが悪いですよね。更に、買収額自体が少ないですから、双方これに多大な弁護士費用、管理コストをかけるの見合わないという理由もあります。

小規模のM&Aは内容が公表されないことが多いので正確にはつかめませんが、技術ベンチャーの売却をアドバイスする身としては守りどころなので、そんな感覚です。もし多いとしたら、自力で交渉する起業家が足元を見られている可能性が高いような気がします。

そんな訳で、細かい話になってしまいましたが、皆さまぜひ慎重に。この経済環境化でも納得のいく取引ができると良いですね。

ではまた。