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資金調達とNDA

どうも。今日は質問を頂いたので、前回に引き続き資金調達に関連して、NDA(non-disclosure agreement)の話です。

起業家が「これはイケる!」というアイディアを他人に知られないように大切に保護したいという気持ちは分かりますが、その事業に投資してもらうためにVCに話をする場合、VCがNDAにサインしてくれることはまず無い、というのが実情です。それが道義的にどうかということは別にして、NDAを交わさないことがスタンダードだということは承知しておくべきだと思います。

この背景には、VCは膨大な数のビジネスプランを見ており、時には同様のベンチャーをいくつも同時期に見ていることもあるため、「アイディアを盗んだ」という類の訴訟のリスクを回避する必要があるという点があります。一つ一つのケースに細かな文言を交渉し規定し守秘義務の期間を詳細にトラッキングすることは、不可能とは言えませんが、それではベンチャー企業とVC双方の弁護士費用、検討にかかる時間が膨大になり、プラクティカルでは無いため締結しない事が通常となっているわけです。そして交渉の立場の差ということもそれを後押ししていると思います。

では起業家はどうしたら良いのか?

まず、何がトップシークレットなのかを冷静にそして現実的に考えることです。これは業界業種によって相当異なります。ですが、ビジネスのアイディア自体があまりにも斬新で誰かに知られてしまっただけで価値を無くす、ということは極めて稀、というかほぼゼロに近いと思います。大概はそのアイディアを実現する過程で価値が生まれ、そこに至るチームに属する知識やノウハウがものをいうわけで、ハイレベルなアイディアを聞いただけで他人が真似できて自分達を凌駕するという不安はあまり現実的ではないですよね。

で、VCにプレゼンをする際には、トップシークレットに当たる情報は開示しないことを選べるわけです。そもそも1回のプレゼンで資金調達が決まるわけではないですし、興味を持ってもらえればその後何度も話し合いが取り持たれるので、情報開示のレベルは段階的にするべきです。通常はビジョンや成し遂げようとしている事の利点、マーケットサイズ等のWhatの部分に誰しも関心があり、そこでつかめない限り、通常秘儀が詰まったHowを話す必要すらもないのです。

そしてこの情報開示に当たっては、”give a little, get a little”という態度で臨むのが良いかと思います。NDAで保護されない分、何かしらの情報を開示するためには、そのVCが他にどのような案件を見ているかは知った上で行いたいですし、その他、書類上ではなく現実的にある程度自社を保護することに繋がる質問はどんどんして、お互いにその辺は透明性があるようにもっていくのが望ましいと思います。質問の答えによっては、「ここまでしか開示できない」と線引きをするべきです。

それでも危険すぎるという場合は、外部からの資金調達の時期を遅くするというのも可能でしょう。ちょっと知っただけでは他社が追いつけない程度に、製品・サービスを作った時点で話を持っていくのです。手持ち資金がどのくらいあるかにも左右されますし、機会損失についても考えるべきですが、上手くいけばバリュエーションについても優位に交渉ができることもあります。

重要なのは、NDAという書面にこだわるのでもなく、かといって全てを献納するのでもなく、プラクティカルな対応を自分で選択することだと思います。

VCの方、起業家の方、ご意見・ご経験ありましたら、ぜひコメントをお寄せ下さい。

それでは今日はこの辺で。ではまた。

投資家へのデューデリを忘るべからず

どうも。今日はちょっと急ぎなので手短に。

時々話題にしている資金調達ですが、お昼に出た会合で、とあるVCの方が以下のようなコメントをされていました。

「資金をあるベンチャーに提供しようかという話をするとき、VCはもの凄く徹底的にデューデリジェンスをしますよね。そのベンチャー企業の行いだけでなく、起業家自身の家族だとか飼い犬だとか(笑)、とにかく細かくやるわけです。
それなのに、驚くべき事に、起業家の方は、VCに対して極々基本的なデューデリもしない事が多いのです。ファンドの出資者にはどんな人や機関がいて、現ファンドの規模や期間はどれ程なのか、という投資行動に直接影響があるような事項も聞いてこないんですよ。」

起業家がベンチャーキャピタルのビジネスを詳細に知らなくてはいけない、とは思いませんが、このファンドとサイクルというものがVCの意思決定の背後にあることだけは押さえておいたほうが良いでしょう。例えば起業家が$5Mくらい資金調達をしたいと思っていて、VCが「いや早くに多く調達しすぎるのは良くないし、今回は$2Mくらいでいいんじゃないかな」と言ったとします。これは本当にそうかもしれないですが、実際は現ファンドも半ばを超えて懐事情がキツイという内部的な事情からきているだけかもしれません。

この事は一度に資金調達できる額への制限だけでなく、ファンドの残り期間が少なく次のラウンドにおける追加投資をしてもらえなかったり、ファンドを〆る必要が近づいているために、最適な時期ではなくても、その企業の売却を迫られたり、ということにも繋がってきます。

ついつい見落としてしまいがちですが、誰が誰のほうを向いて働いているか(誰に対して責任を持っているか)ということは、外部組織、内部組織の何れにおいても其々の意思決定に関わってきますので、注意を払ったほうが良いと思います。そういうことに敏感であろうとすれば、お互いにウィンウィンな条件に話をもっていくこともできますし、後々にサプライズが少ないはずです。

今日は教訓事の備忘録がわりに、この辺で。ではまた。