tech venture business » Posts in 'ベンチャーを取り巻く人々' category

あのベンチャーに投資してさえいれば…!

どうも。サイトメンテナンスでお騒がせ致しました。ほぼほぼ問題は落ち着いたようなので、通常通りエントリー再開します。何らかの不都合が依然として生じている方、大変申し訳ございません。お手数ですがメールかコメントでご連絡下さい。といっても、そういう方々はこの更新メッセージを受け取っていらっしゃらない可能性が高いんですよね。当たり前ですが。反省。今度大幅に変更をする時は事前にご連絡します。

さて、気を取り直して。今日はVC投資の軽い話を。
いくら投資家側に余剰資金があるとはいえ、VCから資金調達をするというのはご存知の通り簡単なことではありません。時間も労力もかなりかかりますし、やんわりと断られたり、延ばし延ばしにされたり、とまあ試験に落ちたかのように気がへこむことも多いわけです。

ではVCの自分のベンチャーに対する判断は正しいのか?以前のエントリーでも触れましたが、もちろんそうとは限りません。ある時点での投資の判断基準には様々な外的内的要素があり、VCファームごとの特性や得意分野、担当者の知識、リスクの取り方なども異なりますし、絶対的評価はあり得ないのです。様々な観点からの質問や批判については真剣に受け止める必要があるとは思いますが、けちょんけちょんに言われて、どこからも資金を得られなくて、それでも自分の発想を信じるならば前進すべきだと思います。

VCの判断が正しいわけではないことの格好の例として、老舗のBessemer Venture PartnersがAnti-Portfolioという面白いものを自社サイトで掲示しているのでご紹介します。このVCは1911年から事業を継続しており、その長い歴史の中で数多くの成功もあれば、今振り返ると「なんてばかな、もったいない!」と思う案件もたくさんあるとし、投資の機会があったが何らかの理由で見送ったベンチャーでその後大成功したものを簡単なお断り理由と共に公開しているのです。

潔いですよねー。老舗なりの余裕というか粋というか。「このような失敗例を認識することで今後さらに当社をより良い会社に成長させていこうという励みになる。まあ、もしこれらのベンチャーに投資してたら、100年近くも伝統ある事業を継続しないでとっととやめてたかもしれないけどね」とのこと。

ではその例のうち幾つかを引用します。

Apple Computer
BVP had the opportunity to invest in pre-IPO secondary stock in Apple at a $60M valuation. BVP’s Neill Brownstein called it “outrageously expensive.”
(「バリュエーション$60M? ばか高すぎ」)

Check Point
In 1994, Gil Schwed pitched his idea to BVP’s David Cowan, who said that Gil would never get distribution in the US. The next year, Check Point got a huge Sun OEM deal and sold $25M of firewall software.
(「絶対USで展開できないね。」 しかし翌年にはSunとOEM契約し$25Mの売上げが)

eBay
“Stamps? Coins? Comic books? You’ve GOT to be kidding,” thought Cowan. “No-brainer pass.”
(「切手とかコインとかマンガ本?冗談でしょ、間違いなくパスだね」)

Federal Express
Incredibly, BVP passed on Federal Express seven times.
(信じ難いことに我々は7回もフェデックス案件を断った…)

Google
Cowan’s college friend rented her garage to Sergey and Larry for their first year. In 1999 and 2000 she tried to introduce Cowan to “these two really smart Stanford students writing a search engine”. Students? A new search engine? In the most important moment ever for Bessemer’s anti-portfolio, Cowan asked her, “How can I get out of this house without going anywhere near your garage?”
(「学生?新たなサーチエンジン?」と訝しがってあのガレージに近寄らなかった)

Intel
BVP’s Pete Bancroft never quite settled on terms with Bob Noyce, who instead took venture financing from a guy named Arthur Rock.
(タームを詰めないうちに他にいってしまった)

Intuit
Along with every venture capitalist on Sand Hill Road, Neill Brownstein turned down Intuit founder Scott Cook. Scott managed to scrape together only $225K from friends, including HBS classmate and Sierra Ventures founder Peter Wendell, who personally invested $25K to get Scott off his back.
(他の多くのシリコンバレーのVC同様、ファウンダーを却下。彼は自力で友達等から資金を集めた)

Lotus and Compaq (当時Gateway Computer)
Ben Rosen, one of the founders of Sevin Rosen, offered Felda Hardymon the chance to invest in both Lotus and Gateway Computer on the same day. Says Hardymon: “Lotus had just missed a payroll, and I was worried about the situation there. As for Gateway, I told him there was no real future in transportable computers since IBM could do it.”
(「Lotusは給料出せなかったし、Gatewayに関しては将来は無いな。IBMがいるからね。」)

Paypal
David Cowan passed on the Series A round. Rookie team, regulatory nightmare, and, 4 years later, a $1.5 billion acquisition by eBay.
(「経験の乏しいチームだし、規制がある分野なので大変」)

如何でしょう。今だからこそ笑えるものですよね。こうして見ると、Bessemerは全く見る目がないのでは?と思ってしまわなくも無いですが、恐らく東海岸発の老舗ゆえに、テクノロジー特にイノベーションを見極めるのに適切なものを有していなかったのだと思います。これまでのポートフォリオを見るとリテールから何から様々な業界に投資しています。予測のつく大きなマーケットで伝統的なファイナンシャルカーブを描けるようなベンチャーに投資すべきだという発想が根強かったのかもしれません。近年はおそらくシリコンバレーオフィスではテクノロジーに強い人材を有して変化に適応しているとは思います。個人的にお会いしたことがないので分かりませんが。

というわけで、資金調達に苦労している方々はこれをみて笑い飛ばして元気をだしてくださいな。
今日はこんなとこで。

より多くの人に使って欲しいという思い

どうも。昨日のエントリーで紹介した本の内容に沿うような、目先のことではなく世界に貢献すべくがんばっている起業家の、さわやかであついエントリーに出会ったので意訳しつつ触れたいと思います。これはアメリカではトップシェアを誇るオープンソースブログソフトウェアのWordPressのファウンダー、Matt Mullenwegによるものです。(ちなみに我がブログもWordPressを使っています)

WordPressを始めた時が19歳であったということもあり、マスコミが「若い起業家が、ある日突然素晴らしいアイディアを閃き、一夜のうちに成功を収めた」というステレオタイプな話にインタビュー記事をおとしこみたがっているようだとし、もちろんその方向性で話をすればマスコミ受けしてさらに知名度は上がるようだけれども、そのような事実とは異なる煽動的な記事は、短絡的な起業を増やし本当に重要なことを成し遂げることを阻害すると批判しています。

What’s worst is I think these stories sell a false promise and hope to people outside of the industry — it attracts the wrong type of entrepreneurs — and inside of the industry it distracts us from what really matters.

実際には、WordPressは4年間の絶え間ない努力があったからこそ今に至っており、これから先何年もの努力が待ち受けているもので、「一夜のうちに成功した」とは程遠いと。また、自分及び数人だけで創ったのではなく、パッションを共有する世界中の多くの人の協力なくしは成し得なかったと述べています。

そして、彼が何を追求しているかというと…

It’s not about selling out to a single company, it’s dozens of companies independently adopting and backing an open source platform for no reason other than its quality. I’m not a millionaire, and may never be, but there are now hundreds of people making their living using WordPress, and I expect that number to grow to tens of thousands. That’s what gets me out of bed in the morning, not the prospect of becoming a feature on an internet behemoth’s checklist.

金でも名誉でもなく、より多くの人に使ってもらうことを喜びとしてるわけですね。

実はこの「自分の創った物をより多くの人に使ってもらうことを喜びとする」というのはエンジニア起業家には割と多い、いわばクラシックなモチベーションです。ですが、90年代や昨今のようなブームになると、周りで短期間に大金を得た人を見るにつけ、表現は悪いですが、猫も杓子も起業という状況になってしまうことがあります。そうなると、スコープが小さくモチベーションが金銭面に偏ったベンチャーも数多く、逆にこのようなクラシックな発言を耳にすると新鮮に感じてしまうわけです。 いやー、良いですね。

彼はまだ23歳。これからもこの至極まっとうな気持ちと情熱でがんばってほしいものです。 歳云々というと怒られちゃうかもしれませんが、でもやはり、この年齢で地にしっかり足をつけて、自意識過剰にならず、チームあっての自分とはっきり認識していることは、そうあることではないと思います。 大人だなー。

自分が19の頃なんて、何してたでしょうね。少なくとも仕事なんて事は考えてもいなかったはずです。その時なりの一生懸命さはあったような気もしますが、自分に対する内向きなもので、外の世界に向けてあんまり考えていなかったのではないかと思います。 まあ、人それぞれですけどね。皆さんはどうですか?

では今日はこの辺で。皆様良い週末を。