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どうも。今日は昨日読んだ本の紹介を。昨年10月に紹介した「Startup」にもCFO & VP of Business Operationsとして登場しているRandy Komisarのもので、僧となぞかけ(禅問答と言ってもいいのかな)という、Harvard Business School Pressにしては一風変わったタイトル。これもまたかなり前、2000年に出版されたものですが、今でも色褪せない内容です。
Randy Komisarは弁護士出身で、Apple始めシリコンバレーの数社でオペレーションの役割を歴任した後、Virtual CEOとして数多くのベンチャーにメンター、アドバイザーとして関わってき、今は一流ベンチャーキャピタルのKPCBでVCをしています。
この本は著者の経験と信条をもとにしつつ、さらりと面白いストーリー仕立てになっているのですが、ハウツーものや武勇伝とは異なり、起業やキャリアそして生き方に対する真摯な啓蒙書であると同時にベンチャー起業・経営に実用的な視点を与える仕上がりになっており、その短さや一見シンプルな作りに反して何通りもの読み方ができます。
本筋のメッセージはというと、まずはDeferred Life Planを取り入れるなということ。これは、楽しんでいる仕事ではないけど今はとにかくお金を稼いで定年してから本当にやりたい事をやろう、というような切り離し先送りの人生を歩むなという意味。それは間違ったリスクの取り方だと。もちろん状況は変化するので一生やりたい事を1つだけ見つけるというわけではなく、その時その時で、明日死んでも後悔しないような情熱をもって出来る事に早速取り組めと。
だからといってゴールを達成することが重要なのではなく、曲がっていようが真直ぐであろうがその道筋自体が自分を表現し様々なことを吸収する、生なのだということ。 実現可能そうだからとかお金になりそうだからという視点でスコープを小さくしないこと。それでは結局自分の情熱を注いでやりたいことにはならず時間の無駄である。逆に自分のやりたい事であれば目的地から迂回していても無駄ではない。
その他、私個人としては、旅好きだったり、いわゆる一直線なビジネスタイプではなく、雑然としたクリエイティブ世界と整然としたプロフェッショナル世界の両方に足を突っ込んでいたいところとかに、妙に勝手な親近感を覚えました。そして、テクノロジーではなくプロフェッショナルサービスのバックグラウンドを持つ者として、自分がワクワクするテクノロジーベンチャーとどのように関わっていけるのかということを考えるにつけ、参考にもなりました。
また、架空の話であるにせよ、シリコンバレーでの起業、ビジネスプランの考え方、資金調達等といった面でも学ぶところは大きいと思います。
この本、暫らく前に買ったのですが読まずじまいで、つい先日ふと読む気になったんですね。
そしたら丁度しっくりきて非常に良かったです。その時の状態に合うように、無意識のうちに、本とか映画が向こうから近づいてくるようなことってたまにありますよね。 さくっと読めるし、お薦めです。
残念ながら日本語の訳本は無いようですので英語版リンクしておきます。平易な英語ですのでぜひ機会があれば読んでみてください。
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どうも。随分と間が開いてしまいました。すみません。GWでバカンスへ行っていたと言いたい所ですが、実はほぼ仕事に追われておりました。たまにあるんですね、こういう事態が。普段は日本に比べて断然のんびりとした生活をしているんですけどね。
さてさて、気を取り直して久々のエントリーです。最近幾つかの記事に「近頃インキュベーターが増えている」という話題があったのでその件について触れたいと思います。
前回のドットコムバブルの最盛期には約700ものインキュベーターが存在し、バブル崩壊後その80%以上が消え去ったそうです。当時のインキュベーターのスタイルがバブルをより助長した面もあり、incubatorならぬincinerator(焼却炉 – お金を湯水のように使ったけども価値を生まなかったという意味なんでしょう)と揶揄されたりもしたようです。
そんなインキュベーターブームが再来するということは、やはりWeb2.0バブルなのか?それとも最近生まれているインキュベーターは過去のものと一線を画するのか?というのが気になるところですね。
この背景には二つのことがあると思います。
一つはこのブログで何度か触れてきたように(エントリーの最後に関係記事へのリンク並べておきます)、ウェブやソフトウェア等の分野においては案件ごとの必要投資額が非常に少なくなったのに対して、投資家側では資金が余っているという状況があり、従来のVCモデルが成り立たなくなるような構造変化が見られること。
そして、もう一つは、ウェブや携帯のサービスに限って言えば、どれが流行るかはやっぱり事前には分かり得ない。なので、結局数を多く放つしかないのかもしれない、ということです。
新たに出てきたインキュベーターには大きく二通りあるようです。一つはこのブログでも何度か言及したPaul GrahamのYCombinatorを模したもの。コロラドを拠点としたTechStarsやYEurope等がその例です。(詳細は其々の TechCrunchの記事をどうぞ TechStars YEurope ) こちらはインキュベーターを運営しているいわばメンターの力量が問われますね。形はまねができてもPaul Grahamのオーラはかなりのものですからね。
もう一つは起業家とエンジニアからなるチームがあって、プロジェクトベースでサービスを幾つか立ち上げて、軌道に乗ったらスピンオフするというもの。ベンチャーがホールディング会社になる感じですね。以前触れたObvious Corp(近頃Twitterがヒットしたので外だししました)、それからシリアルアントレプレナーのNaval Ravikantが始めたものでもう少しきっちりした仕組みのあるHitForgeがその例です。両方ともサンフランシスコを拠点にしています。今月のBusiness 2.0の記事でNavalはこれをHollywood modelだと称しています。映画スタジオのようなもので、マイルストーンにそって開発し、コンセプトを試して、流通網へのアクセスを提供するのだ、と。
後者は結構面白い試みだと思います。一つ一つはプロジェクトなので、必要に応じて人員配置も資金投入もフレキシブルにできるし、個々のプロジェクトは企業本体のアイデンティティとは切り離されているのでダメなものはすぐ切れる等、個々のベンチャーの場合にはできないレベルのリスク回避ができそうですね。アイディアはたくさんあって一つの事に絞りたくない場合もありますし、それぞれのアイディアがプロダクトとして関連性の低い場合でも、インキュベーションという形を取って本体と切り離している場合なら「フォーカスを失っている」という批判からも一応身を防げそうですね。
とはいえ、もちろん資金面の問題や、ロックされた人材からどれほど多様なアイディアが生まれるか、とかCEOや主要メンバーが多くのプロジェクトに注力できるか、等の様々な難問も立ちはだかっているので、これからどうなるか見守るしかないですね。日本の場合、どちらかというと一つのベンチャーが様々なサービスを開発し続けてデパート化して行く傾向があるかと思いますが、このような取り組みは一考の余地があるかもしれませんね。
これらのインキュベーターはまだ始まったばかりなので、今後どうなるか楽しみです。数年後にVCとの境界がどのようになっていくのかは中々面白いテーマのように思いますが、如何でしょうか。
今日はこんなとこで。ではまた。
<以下VC構造変化関連の過去エントリーです>
VCから資金調達すべきかすべきでないか、それが問題だ
YouTubeから考えるVCの構造問題
VCがエンジェルになる?