創業者とCEO – Part 1
今日は前回予告した通り、創業者とCEOについての話です。ちょっと書き出したら複雑になってしまいそうだということがわかったので、2回に分けて書くことにします。
自分のアイディアで始めたベンチャーをずっと率いていけたらシンプルなのですが、企業としてのエンティティとなると一人歩きして、自分以外のステークホルダーも其々の思いを抱くので、かなり複雑なものになりますね。その中で、創業者である自分の社内での位置付けを変えて行く必要があることが多いという現実について、ちょっと考えてみたいと思います。
仮に、若い複数のエンジニアでアイディアを練って「これはイケそうかも」ということになって、その中でもビジネス側に興味があったり経験があったりする人がCEOとなるという形で起業したとします。法的な整備やオフィスの整備など想像以上に煩雑な事を一つ一つこなしながら会社という箱を作って行き、エンジニアを更に雇用し、技術・製品開発の状況を管理しつつ、資金の調達に奔走し、人脈や体力を駆使してビジネスディベロップメントを必死に頑張ります。
最初は分からない事だらけだったけれども、プレゼンなんかも上手くなり、やっているうちに非常に面白くなり、自分の成長を感じています。その努力が報われて、とうとう最初のお客さんを獲得することができ、自分達のソリューションに需要があることが立証されました。ここまで到達した事で自信がついて、これからどんどん製品を売って会社を大きくするぞ、と意気込んでいます。
では、このままの体制でどんどん行けるでしょうか?
テクノロジーベンチャーの成長段階には幾つかの大きなフェーズがあって、まずはアイディアを形にして技術・製品を開発しユーザーからのバリディーションを受ける段階、それからその製品を市場に大きく展開していくためのインフラを構築する段階、そして構築したインフラを活用して製品を市場展開し売上を出して行く段階があります。それが軌道に乗ればIPOという形もあるでしょうし、ある程度成り立った企業として次の手を展開していくということが続きます。
上記の例のように、エンジニアから即席CEOとして出発しバリデーションにまで至るのは本当に素晴らしいことです。クライアントや知合いのベンチャーにおけるこうした実例を目の当たりする都度、その並々ならぬ努力や短期間での成長度合いには心から感嘆してしまいます。
ですが、その次のインフラ構築フェーズになると、セールス組織やサポート組織を整備したり、チャネル網を張り巡らせたり、マーケティングに本腰を入れたり、人も増え複雑化した複数部署を効率よく統率する必要がある等、組織全体をいわば”会社らしく”することが求められます。その執行には全く異なるレベルのスキルが必要であり、しかも迅速に行う事が求められるため、その職務を遂行するハードルはかなり高いと言えます。また、その後の段階も本格的なPL の管理、IPOを見越した組織整備など様々な経営課題が次々と押し寄せます。
これらは会社として数々の重要な決断が必要となる分岐点です。会社としてそもそも何を目標としているのか、これからどんなエンティティにして行きたいのか、どんなスピードで成長させて行きたいのか、そのために必要なことは何か、を総合的に判断する必要があります。CEOの適正判断はその内の重要な1 つですし、目的によっては単体の会社として成長するのではなく他社の傘下に入ることで後続の段階を変える事もあるでしょう。
これらの判断は基本的には一歩引いて株主の立場で為されるべきものです。株主が創業者だけであるとしても、創業者の場合、所有と経営が日常において分離していない為、感情的にもなりますし、創業者間で意見の食い違いもあるかもしれず、簡単ではありません。また、もしVC等から資金を調達している場合は創業者以外にも株主が居るわけで、持ち株比率や取締役会の構成にも寄りますが、創業者以外のステークホルダーの意見もかなりのウェイトを占めることになり更に複雑化します。
もちろん創業時にMBAタイプのビジネス側メンバーをCEOとして立ち上げることもありますが、その際も各分岐点でその適正を総合的に判断する必要があることに変わりは無いでしょう。
まずは、当然かもしれませんが、ベンチャーの成長の各段階でCEOに求められるものが大変異なるという事、そして各段階で創業者はオーナーの立場で目的に合致する決断をする必要がある、ということを認識して頂ければと思います。
次回も引き続きこのテーマを追います。取り留めないですが、また次回。