tech venture business » Archive of '10月, 2006'

Reddit – 戦略的M&Aという成長戦略

どうも。投稿が遅くなりました。今日はGoogleのJotSpot買収とCondé Nastによるredditの買収という2つのWeb2.0関連のM&Aがありましたので、そのうち後者の方を取り上げて見たいと思います。

redditは度々Diggと比較されているユーザー参加型のニュースサイトです。2005年に設立され現在は従業員4人の小さなベンチャーです。 先日引用したPaul Graham氏のいわゆるインキュベーターであるYCombinator等から$100k程の初期投資を受けています。(その後の追加投資があったかどうかはイマイチ不明です)

買収先のCondé Nastは大手出版社で、Vogue等のファッション誌やテクノロジー関連のWired、その他多数のライフスタイル雑誌を出版し、またそのウェブサイトを運営しています。

買収額などのtermは明らかにされていませんが、Wiredの傘下としてチームをサンフランシスコに引越しさせ、redditととして独立したまま運営しつつ技術を完成させ、WiredはじめCondé Nastの運営する様々なウェブサイトにこの技術を統合して、更に他社にもライセンスしていくというプランを発表しています。

このRedditはDiggの離れた2番手として言われてきたことが多いのですが、アプローチには明確な違いがあります。1つはredditにはどの様ににニュースを評価しているかという行動特性を把握することによるリコメンデーション機能もあること。Read/Write Webではこの点に触れ、DiggをPower of Mass、redditはPersonalized Contentと分類しています。(Read/Write Webにはredditの技術や競合に関してこれこれなど非常に良い記事が幾つかあります。その他redditとDiggの投票形式の違いを比較したZnetのこの記事も参考になります)

もう1つの大きな違いはredditはwhite label(いわゆる”powered by”と記されたOEMのようなもの)として自社の技術を他のウェブサイトにライセンスしていることです。これには今回の買収相手であるCondé Nastのもので、セレブのゴシップニュースなどを扱うLipstick.comや、WashingtonPost.Newsweek InteractiveのSlate等があります。

では出版社であるCondé Nastがなぜ買収したのか。
redditの技術の視点が人気投票よりもパーソナライズにあり、コンテンツを多数持っている当社にとって非常に活用価値があるというのがまず大きかったのだと思われます。確かにこのままライセンス契約をすることもできたはずですが、redditが他社に既にこのライセンスを提供していることもあり、自社でこの技術を掌握するのが長期的には得策であると踏んだ。しかも技術を他社にライセンスすることでプロダクトレベニューが入る。恐らく結構リーズナブルな額だったはずです。
ではなぜredditは売ることを決めたのか。自社のブログでこの様に言っています。

As reddit grew, we were never quite sure where it would take us. To keep up with reddit’s growth, we’d need to decide between taking more investment or getting acquired. As much as we enjoyed VCs taking us out to lunch, CondeNet’s pitch was a little more enticing (they had better food).

最後のランチの部分はジョークだとしても、自社の次の段階への成長のためにVCからの資金投入を受けるか、或いは大きな事業会社の傘下に入るかの選択をした、という点は非常に重要です。

テクノロジーベンチャーには幾つかのステージがあります。分類の仕方は色々とありますが、シンプルに言うと、技術・プロダクトを開発するステージ、プロダクトを展開するためのインフラを構築する(セールスチャネルを築いたり、システムをスケールアップしたり等)ステージ、そしてそれを活かして事業展開し売上をだし成長していくステージです。各ステージでは必要なリソースやスキルが異なりますし、その都度正しい経営判断をしてゆかなければならずリスクが高まります。一方、外から投資を受けている場合は資金と引き換えに当然自社の持分は下がっていきます。最初の開発ステージは業種にもよりますが大抵は必要な資金額は少なく人員も技術者中心です。が、次のインフラ構築にはかなりの資金と異なるスキルの人員が必要になります。それをどのように調達するのがベストかというのが上記で言っている岐路なのです。

資金をVCから受けて自社で人を雇いインフラを徐々に構築するのは1つの方法ではありますが、実はもう一方でその双方を提供してくれる会社の一部となるというM&Aの選択肢もあるわけです。この場合、インフラはあるが必要な技術がない企業とその技術はあるがインフラが欠けているベンチャーとの相互補完関係が成り立ちます。これを俗に戦略的M&Aと呼びますが、通常M&Aと言った場合買い手の視点で語られる事が多く、ベンチャーにとっても得るものの大きい戦略的な補完関係なのだということが見過ごされているように思います。

例えばあるベンチャーの夢が自社のテクノロジーを世界中の人に使ってもらいたいというものであるとして、競合状況と市場の成長スピードを考慮した場合、どの方法がその夢をより確実に実現できるかと問う必要があります。資金を投入して自社で有機的に成長する場合は、集められる資金量により速度は制限されるので自ずと緩やかなものになります。その間に競争相手に先を越されるかもしれませんし、自社の限られたリソースやブランドではリーチできるユーザー数も限られます。一方でビジョンを共にし、自社の夢を実現するのに最適なインフラやブランドを提供してくれる相手がいる場合、自社ではなし得なかった規模・スピードで一気に事業展開し、より多くの人にリーチできる可能性があります。勿論自社の所有と引き換えになりますが、実はこの岐路でM&Aを選択することはテクノロジーベンチャーにとっては最もリスクの低い夢の実現方法、つまり正当な”成長戦略”である場合があるのです。

この成長を成し遂げるには、当然自分の条件を明確にし、最適な相手を慎重に選択する必要があります。その点をredditは次のように言っています。

We’re still going to be the guys reading your feedback emails and keeping reddit chugging along. We’ve also been given about as much autonomy as an acquired company could get. In fact, they’ve insisted that we focus on growing reddit. With their resources, we’re looking to do some neat things in the coming months.

redditの条件が傘下に入るながらも独立運営ということであったことが読み取れます。
この度の選択が本当に良いものであったかは時を待つしかないですが、私はしっかりと考えられたものだと評価します。但し、1つだけネガティブな点があるとすれば…これなどの得られる情報を見る限りでは、買収の経緯はどうやらLipstickでの協働経験からオファーが出たということらしく、redditは他の買収相手の可能性を広く探ってはいなかったようです。とすると、買収の価格は結構低かったと思われますし、他にもっと適した相手がいた可能性も捨て切れません。

この戦略的M&Aという”成長戦略”を、ベンチャーが早期の段階から考慮し主導的に実践することができればベストなのですが。

VCの婉曲表現

今月最初の方に書いたVCに関する投稿(VCってどんな人達?)が好評のようでしたので、またVCネタを。

VCから投資を受けるのは一言でいえば、大変です。VCに舞い込んでくるビジネスプランの数は膨大で、その内実際に投資されるものはほんの一握り (1%とも言われています)です。どのVCのウェブサイトでも表向きはビジネスプランを受け付けていますが、このチャネルで相手にしてもらえる確率は非常に低いです。シリコンバレーの大手VCはウェブサイトから或いは郵送でのビジネスプランの送信、電話での売り込み等、知らない相手からのこういったインバウンドの問い合わせには一切応えないと公言していらっしゃる方も多いです。処遇の良し悪しは別として、これが現実です。

投資が受けられないからといって自分のベンチャーはだめなのか、と思う必要は必ずしもありません。VCそれぞれの成功法則に当てはまらないだけということが多いのも事実です。VCは数多くの案件の中から個々のベンチャーのアイディアとチームの良し悪しを見極めて投資すると思いがちですが、実際は業界やセクター(今だったらコンシューマーインターネット系、環境テクノロジー系が流行です)に投資することも多く、「良いチーム」とは以前に成功した既知の起業家或いはその人の紹介、ということを意味する場合もあります。自分のベンチャーが成功できるかどうか冷静に見つめる必要はありますが、VC投資を受験みたいに捉えてはいけません。要は相対的な基準なのです。VC以外にも資金を得る手立てはありますし、場合によってはキャッシュフローでやっていけることもあります。

さて、運良くVCにプレゼンする機会が得られたとして、そこから実際に投資を得るまでの道のりは長く、必要な資金額が多ければ多いほど大変です。何が一番大変かというと、なかなかYes or Noの返事がもらえず、プロセスのどの辺りにあるのか掴めないことです。と、いうのもVCはNoと言わないのです。退路は絶たないという戦術で、あるベンチャーがイマイチだと思っていても、もしかしたら上手くいく可能性もあるので、その時にパイがとれるように、ようは宙ぶらりんにしておくのが有効だからです。

そうとは知らずVCから投資を得ることに必要以上の労力をかけると、大変な無駄になります。ルールをわかってゲームをすべしです。そこで、基本的にはNoのサインである幾つかの表現を並べて見たいと思います。

“It’s not you, it’s me.” 「(悪いのは)君じゃなくて私の方だ。」

これはお察しの通り、別れの常套文句です。君のやっているベンチャーは良いのだけど、今の当社の状況ではすぐにアクションをおこせないんだ、という感じでやんわりと使われます。

“It’s not in our sweet spot.”

君のやっているベンチャーは良いのだけど、当社のおいしいところにぴったりくるものではないんだよね(なので時間かかってるんだ)、という感じ。

“If you get a lead, we will follow.” or “We love to co-invest with other VC.” 「もしリード(インベスター)を抑えたら、私たちも投資するよ。」 或いは「当社単一で投資するよりも他のVCと共同で投資したい。」

投資ラウンドを引っ張るメインになってくれる他のVCを探してこれたら当方も投資する、という意味で、要は良い投資だという証拠を抑えてからおいで、そうじゃないと危なくて投資できないよ、ということ。

“Show us some traction, and we’ll invest.” 「(顧客やパートナーからの)興味を引いてから、また見せてください、そのとき投資しますんで。」

有名な企業や数多くのユーザーを得てからだったら(話を聞いてあげる)、という意味。

“Stay in touch”「また連絡してください」

いわずと知れた、社交辞令です。特定の次のアクションがないものはほぼこれにあたります。

これはほんの一例に過ぎませんが、このように起業家の気分を害さないような婉曲表現を使うことで意見を明確にしないという方法が良くとられます。 VCのビジネスを考えれば納得なのですが、資金集めに躍起になっている起業家は、この反対側のルールを知らずにmaybeはyesだと解釈してしまいがちなので、お気をつけ下さい。楽観的であることは起業家には重要なのですが、それが仇になるときもあるのです。

こんなとこで、ではまた来週。