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「当社は素晴しい」の愚

どうも。前にも触れた事がある気がしますが、自社の利点やスバラしさをどのように伝えるかというのは、奥の深い問題です。これという一つの解決策があるわけではないのですが、やってはいけないこと、或いはやっても効果がないこと、というのには幾つか明確なものがあると思います。

その一つが、スバラしさを伝えるために、「これはスバラしい」と自ら言ってしまうこと。そんな馬鹿なことをするわけがない、と思われるかもしれませんが、実は様々な形容詞に形を変えはするものの、かなり頻繁に遭遇しますし、多くの方も気づかずにやってしまっているかもしれません。

例えば、「革新的な」技術、「有能な」社員、「他に類を見ない」成長率、等ですね。アメリカの方が、ちょっと大げさかつ自信満々に振舞うことが多いため、こうした形容詞の頻度も更に高いような印象ですが、洋の東西を問わず、こういった表現は見られます。クライアントのウェブサイトであれ、プレゼン資料であれ、こういった表現が一つも無いものに出会うことの方が少ないかもしれません。

これらの表現の問題は、一つは具体的ではないこと、二つ目が、それ故ただの宣伝文句として陳腐に聞こえるために、期待通りの効果をもたらさないことにあります。ではどうするかと言うと、事実で示すようにすることです。例えば、「一流企業の」顧客がいるのであれば、いくつか本当に一流と目される企業名をさらっと列挙して「一流の」という形容詞は省くのです。

我々がクライアントを売却先候補に紹介する際に作る資料では、第一印象に細心の注意が必要なため、日々こうした表現を見てはカチンとし改善に格闘しているわけですが、今日見た記事で、実は私がなぜカチンとくるまで反応しているかの理由が分かりました。それは、これらの表現の三つ目の問題として、実はこれらは判断の押し付けである、というのがあるんですね。

例えば先程の顧客企業の例だと、企業名を列挙してくれれば、それはどんな顧客層かということを私は自分で判断できます。売上げのデータやグラフを見せてくれれば、それがどういう意味をもつのかはこちらで分析できます。その結果、発言者と意見が一致することもあれば、しないこともあります。ですが、それは押し付けよりはずっと良いことだと思うのです。

一つの事実から異なる解釈が生まれることは当然ですし、それに対して議論することは建設的であって、何かしらの誤解があればその過程で解くことも可能です。それが意見を最初から押し付けようとすると、返ってくるのは反発であったり、最悪の場合、聞き手は自分が知識や判断能力の無い者として侮辱された、と捉えている可能性もあったりするわけです。

全ての人がそれ程強く反応するわけではないとは思いますが、そうしたリスクはできるだけ避けたいですよね。些細なことのようですが、ぜひ皆様お気をつけ下さい。特に、何となくネイティブっぽくなるかと英語になった途端に大げさな表現を多用することがありますので、ご注意を。では、締めくくりとしてその記事から一言引用します。

As an entrepreneur, you are far better off having me determine that your market is “massive,” your founders are “brilliant,” and your product is “elegant,” than to tell me that your company has “an elegant solution serving a massive market designed by brilliant founders.”
君が起業家だったら、君の狙っている市場が「巨大」か、君の共同創業者が「すごく優秀」なのか、君の製品が「エレガント」かどうかの判断は私(VC)に委ねたほうがずっとましだろう。君自身が「当社はすごく優秀な者達によって創業され、エレガントなソリューションを巨大な市場に提供しております」なんて言うよりね。

今日はこの辺で。ではまた。

資金調達とNDA

どうも。今日は質問を頂いたので、前回に引き続き資金調達に関連して、NDA(non-disclosure agreement)の話です。

起業家が「これはイケる!」というアイディアを他人に知られないように大切に保護したいという気持ちは分かりますが、その事業に投資してもらうためにVCに話をする場合、VCがNDAにサインしてくれることはまず無い、というのが実情です。それが道義的にどうかということは別にして、NDAを交わさないことがスタンダードだということは承知しておくべきだと思います。

この背景には、VCは膨大な数のビジネスプランを見ており、時には同様のベンチャーをいくつも同時期に見ていることもあるため、「アイディアを盗んだ」という類の訴訟のリスクを回避する必要があるという点があります。一つ一つのケースに細かな文言を交渉し規定し守秘義務の期間を詳細にトラッキングすることは、不可能とは言えませんが、それではベンチャー企業とVC双方の弁護士費用、検討にかかる時間が膨大になり、プラクティカルでは無いため締結しない事が通常となっているわけです。そして交渉の立場の差ということもそれを後押ししていると思います。

では起業家はどうしたら良いのか?

まず、何がトップシークレットなのかを冷静にそして現実的に考えることです。これは業界業種によって相当異なります。ですが、ビジネスのアイディア自体があまりにも斬新で誰かに知られてしまっただけで価値を無くす、ということは極めて稀、というかほぼゼロに近いと思います。大概はそのアイディアを実現する過程で価値が生まれ、そこに至るチームに属する知識やノウハウがものをいうわけで、ハイレベルなアイディアを聞いただけで他人が真似できて自分達を凌駕するという不安はあまり現実的ではないですよね。

で、VCにプレゼンをする際には、トップシークレットに当たる情報は開示しないことを選べるわけです。そもそも1回のプレゼンで資金調達が決まるわけではないですし、興味を持ってもらえればその後何度も話し合いが取り持たれるので、情報開示のレベルは段階的にするべきです。通常はビジョンや成し遂げようとしている事の利点、マーケットサイズ等のWhatの部分に誰しも関心があり、そこでつかめない限り、通常秘儀が詰まったHowを話す必要すらもないのです。

そしてこの情報開示に当たっては、”give a little, get a little”という態度で臨むのが良いかと思います。NDAで保護されない分、何かしらの情報を開示するためには、そのVCが他にどのような案件を見ているかは知った上で行いたいですし、その他、書類上ではなく現実的にある程度自社を保護することに繋がる質問はどんどんして、お互いにその辺は透明性があるようにもっていくのが望ましいと思います。質問の答えによっては、「ここまでしか開示できない」と線引きをするべきです。

それでも危険すぎるという場合は、外部からの資金調達の時期を遅くするというのも可能でしょう。ちょっと知っただけでは他社が追いつけない程度に、製品・サービスを作った時点で話を持っていくのです。手持ち資金がどのくらいあるかにも左右されますし、機会損失についても考えるべきですが、上手くいけばバリュエーションについても優位に交渉ができることもあります。

重要なのは、NDAという書面にこだわるのでもなく、かといって全てを献納するのでもなく、プラクティカルな対応を自分で選択することだと思います。

VCの方、起業家の方、ご意見・ご経験ありましたら、ぜひコメントをお寄せ下さい。

それでは今日はこの辺で。ではまた。